仙台高等裁判所 昭和43年(ラ)58号 決定 1969年1月20日
抗告人 渋川秀男
主文
原決定を取消す。
本件競落を許さない。
理由
本件抗告の趣旨及び理由は別紙記載のとおりである。
よつて記録を調査するに、抗告人(本件競売事件の債務者)は債権者である青森県信用保証協会を相手方として、青森地方裁判所に別紙目録記載の本件建物に対する本件不動産競売手続停止の仮処分を申請し、昭和四三年八月一三日同裁判所においてその旨の仮処分決定がなされたこと、そして抗告人は同日右競売手続停止の仮処分決定正本を原裁判所に提出していることが認められる。
ところで、本件競落許可決定が言渡されたのは同年同月二日であるから、右決定正本が原裁判所に提出されたのは競落許可決定の言渡がなされた後であることが明らかであるけれども、競落許可決定に対し即時抗告がなされた場合、抗告裁判所は競落許可決定後に生じた事実及び証拠をも斟酌し、抗告の裁判をなす当時の状態において抗告の当否を決すべきものであるから、右事由は競売法の準用する民事訴訟法第六八一条第二項、第六七二条第一号後段により適法な抗告事由となると共に、右建物に対する本件競落は同法第六七四条第二項により許されないものといわねばならない。
もつとも、競売期日後に停止決定の正本が提出された場合には、停止決定前になされた競売期日の手続は適法なものであり、競売裁判所は同法第五五〇条第二号、第五五一条により既になした処分を一時保持すべきであるし、競落不許の決定をすることは最高価競買人の適法に取得した地位を奪うことになり不合理であるから、かかる場合には競売期日の手続が終つたままの状態において停止しておくべきであつて、競落不許の決定をなすべきではないとの見解もあるけれども、同法第六七二条第一号、第六七四条は執行を続行すべからざる事由の存するときは競落を許さないこととし、競売手続の停止をなした時は職権をもつても競落の不許可をなすべき旨規定しているのであつて、その他競落の許否に関する諸規定に徴しても、停止決定が競売期日前に提出されていた場合(従つて裁判所がその段階で競売手続を停止すべきであるのにこれを停止せず競売期日の手続が行われた場合)にのみ右の取扱いをなすべきことを規定した趣旨とは解されないのみならず、同法第五五〇条第二号、第五五一条との関係についても、これらの法条からすれば、執行の一時停止がなされた場合には既になした処分を一時保持すべきものであるから、停止決定の提出された状態で従前の処分を保持することとなるのであるが、前記第六七二条第一号、第六七四条は不動産競売の競落の段階において執行の一時停止がなされた場合には、その特則として、特に競落を不許可として競売期日が行われる前の状態に置くこととし、その状態において従前の処分を保持すべき旨規定したものと解されるし、また最高価競買人においても、競落を下許可とすることにより直ちに競買申出の際提供した保証金の返還を受けられることとなる(若し競落の許否未決定のまま置くとすれば、将来競売手続が取消されることとなるのか続行されることとなるのか未定の不安定な状態のままその解決まで保証金も留め置かれることとなる。)し、将来競売手続が取消されることなく再び競売が行われることとなつた場合には、改めて競買の申出をなすこともできるのであつて、これらの点を総合してみた場合競落を不許可とすることが最高価競買人に必ずしも不利益であるとは断じ得ないから、当裁判所は前記の見解には賛同できない。
しかして、本件競落許可決定は本件建物と青森市大字沖舘字千苅二四二番一九、宅地一〇五・七八平方米の両者についてなされているのであるが、記録によると右の土地建物は一括競売の条件で競売に付されたものであるから、本件建物について前記のような競落不許可の事由がある以上、右土地建物についてなされた本件競落許可決定全部がその取消を免れ得ないものといわねばならない。
よつて本件競落許可決定を取消したうえ、右土地建物に対し有限会社松屋商事が昭和四三年七月三〇日になした競買申出については競落不許の宜言をすることとし、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 村上武 裁判官 松本晃平 裁判官 伊藤和男)
(別紙)
抗告の趣旨
原決定を取消し更に相当の裁判を求める。
抗告の理由
一、抗告人は抗告の別紙記載の建物の所有者である。
二、抗告人は抗告外渋川正雄より本件建物が競売になつておることを聞き登記簿を閲覧にいつたところ抗告外渋川正雄と抗告外青森県信用保証協会のために抗告趣旨記載のような抵当権設定登記がなされていることを知つた。
三、抗告人は本件建物の所有者であるが未登記のままでいたものでありもちろん抗告人は右信用保証協会から金銭を借りたこともなくまた抵当権設定契約をしたこともないのである。
四、おもうに抗告外渋川正雄が自己の物件でないのに抗告人に無断勝手に抗告外渋川正雄所有の家屋に隣接しておるところから、これを自己の家屋増築として変更登記手続をして右信用保証協会と抵当権設定契約したものと思われる。
五、よつて抗告人は本日抗告外渋川正雄と右信用保証協会を被告として、申請外渋川正雄には増築変更登記手続抹消登記手続請求の訴右信用保証協会には債務並びに抵当権不存在による抵当権抹消登記手続請求の訴の提起を並びに任意競売停止の仮処分の手続の準備中である。
所で本件物件の競売は去る七月三〇日午前一〇時と定められており右期日に競売手続が実施された結果青森地方裁判所は、同裁判所昭和四三年(ケ)第二七号事件につき昭和四三年八月二日競落許可決定(以下本件決定という)を言渡した。
六、よつて抗告人は、利害関係人(大決昭和一三年七月三〇日(民集第一七巻一五七九頁)は、登記簿に記載なき不動産の所有者は競売法二七条二項による利害関係人ではないが競落許可決定に対する抗告の関係では、抗告権者たる利害関係人であるとしている)として競売法第三二条二項、民事訴訟法第六八一条第二項に基き、民事訴訟法第六七二条第一号を抗告理由として本件即時抗告に及ぶものである。けだし、本件決定の確定により抗告人の所有権は侵害され回復し難い損害を蒙る虞があるからである。
(本件抗告の対象となつた建物に於て、抗告人は、製菓業の為の工場を営んで居り、右建物が競落されれば抗告人の営業不能となり生活不能に陥いる虞があるからである)
右即時抗告する。
物件目録
青森市大字沖館字千苅二四二番地一九
家屋番号 同字二四二番一九
一、木造亜鉛メツキ鋼板葺平家建工場 一棟
床面積 一〇三・六八平方米